株式会社伍魚福 代表取締役社長

読書メモ雑感2020.07.05(Sun)「ペスト」デフォー著

書店で見つけたダニエル・デフォーの「ペスト」。
内容紹介文には「カミュの『ペスト』よりも現代的と評される傑作」とあり、気になって購入、本日読了。

デフォーといえば、「ロビンソン・クルーソー」の作者として有名です。私も子供時代に楽しく読んだ記憶があります。ストーリーは完全に忘れています(笑)。

この作品は、1665年にロンドンで発生したペストの大流行を、ドキュメンタリー風にまとめた小説です。
出版されたのが1722年。日本は享保7年、徳川吉宗(第8代将軍)の時代であることに驚かされます。
1665年のロンドンのペスト大流行では、死者の数が7万人から10万人といわれ、当時のロンドン市民の6分の1が亡くなったそうです。日本では寛文5年、徳川家綱(第6代将軍)の時代。本文中にある、市長以下行政の対応等、イギリスの先進性に驚かされます。
ペスト菌を北里柴三郎が発見したのは1894年ですので、それまでは有効な感染症対策がなく、世界的に大きな被害を何度も繰り返してきたそうです。

300年以上前のパンデミックの様子ではありますが、人間の生きざまは今と全く変わりません。
当時のペストも、今回の新型コロナウイルスと同じで、自分がかかっていないと思っている人が、知らない間に人にうつしている、という現象があったそうで、この小説にもそういう記述があります。

外国との貿易が止まる、検疫で40日船上で待機させる、不要不急の仕事がすべてストップして貧困層の仕事がなくなる。
行政の保護により、パンの価格は維持され、貧困層への仕事確保や、義援金の配布が行われる。

今の日本をほうふつとさせる事柄がたくさん出てきて驚かされます。
この小説でペストは、季節の移り変わりとともに、致死率が下がり、自然に収束していきます。
しかし、その収束のうわさを聞いて、浮かれた人々がペストにかかって死んでいく、というような描写も。

医学の研究がすすんだ現代でも、治療法の確立していない新型コロナウイルスの前では、昔と全く変わらない人間の日常があります。

翻訳は平井正穂さん(故人)。明治44年生まれの方ですが、訳文は読みやすく、カミュのペストよりもすらすらと読むことができました。

関西では新型コロナウイルスの感染拡大も少し落ち着きましたが、まだまだ油断はできません。
300年前のイギリス人に笑われないよう、新しい常態、新しい生活様式を続けていかねばなりませんね。