株式会社伍魚福 代表取締役社長

勉強メモ経営について2011.01.14(Fri)慶應義塾大学・菊澤研宗教授講演「日本陸軍に学ぶ組織の不条理」

20110114keio_club.JPG慶應義塾大学の神戸のOB会(神戸慶應倶楽部)に所属しています。年に1回程度しか参加しない不良会員です(汗)。
今回は、東京から来られた慶應義塾大学商学部の菊澤研宗(きくざわけんしゅう)教授による「なぜ企業は不祥事に導かれるのか~日本陸軍に学ぶ組織の不条理」という講演会でした。
以前、「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」戸部良一他共著という本を読んでブログにも書いたことがあります。日本軍の組織としての失敗を分析した本だったのですが、現代の経営にも通じる内容だったことを思い出し、参加をさせて頂きました。
会場に到着し、受付をしていますと、会報誌の編集長で会の副幹事長から、本日の例会報告の作成を頼まれました・・・。幹事長からも頼まれ、やむなく引き受けました。既に5人に断られたとのことでした。
というわけで、こちらのブログのネタにもさせて頂くことにしました(菊澤教授には快諾いただきました。ありがとうございます)。
講演は大変興味深いものでした。
まずは問題提起。
多発する企業の不祥事の本質は何か。
マスコミの報道や世論は、不祥事を起こした企業や経営者が無知だ、馬鹿だという論調で批判することが多いですが、本当にその会社は無知で馬鹿だったのか?
不祥事を起こした企業には、有名な会社が多い、優秀な人々もいたはず。
無知で非合理でバカだというのは簡単ですが、この見方だと再発防止はできません。
ここに、なぜ日本軍は負けたのかということとの共通点がある。
最も優秀な人々が最も非合理なことをやった実例でもあると菊澤教授は言います。
日本軍は無知だったのか?
米国についても無知だったのか?
そんなことはありません、山本五十六等の海外留学組、駐在武官経験者が要職についていました。
組織の不条理さ。
個別には合理的だが、全体では非合理。
個別利益と全体利益のずれ。
個別利益と社会倫理のずれ。
このような話の後、日本陸軍の「ガダルカナル作戦」の失敗の状況を説明いただきました。
米軍に占領されたガダルカナル島を奪還しようという作戦ですが、アメリカの近代兵器に対して日本陸軍が得意とした「夜襲による白兵突撃」を何度も行い、多数の戦死者を出してしまいます。
なぜその作戦が立案され、実行されるに至ったのか。
それまでの日本軍の準備(戦車、銃剣、教育訓練・・・)は過去に成功した「白兵突撃」のために設計されており、白兵突撃を否定することは、過去の全ての投資や、過去の戦死者を否定することになる。
これが作戦を変更するという判断のできない「合理的理由」である。
頭のいい人ほど、「合理的に非合理・非効率」な判断をしてしまう。
現代の企業の不祥事も同じ構造です。
社会規範に則った判断をしたときに発生する膨大な「コスト」を考え、隠蔽を考える。
話は、ミクロ経済学にも及びます。
「自由な市場取引」によって資源は効率的に配分されると考える、新古典派経済学の問題点。
それは人間は完全合理的であるという仮定にある。
現実には人間は完全合理的でも完全非合理的でもない。
つまり「限定合理性」の仮定に基づくべきである。
「限定合理的」な人間の世界では、市場取引には、取引上の無駄、つまり「取引コスト」が発生する。
取引コストとは、会計上では現れない見えないコストのこと。
正しいことをやることによるメリットと、それをやるためのさまざまな苦労(これが取引コスト)。
これを比較して、苦労の方が大きいから正しいことをやらない。
これが「不条理」です。
では、そのような不条理の発生を回避するためにはどうすればよいか。
菊澤教授は、
正義を追求するリーダーの存在。
絶えず変化する組織。
だとおっしゃいます。
東京理科大学の伊丹敬之教授の本の中に書かれていた「不安定な企業ほど安定」という話とも共通点があります。
考えさせられました。
我々も絶えず変化していかねばお客様に置いて行かれることになります。
日々努力を重ね、誠実に、変わり続けて行きたいと考えています。
素晴らしい講演を頂いた菊澤教授、設営いただいた幹事の皆さんに感謝。
ありがとうございました。