株式会社伍魚福 代表取締役社長

「食」全般くぎ煮資料室地域・社会とのかかわりについて2026.05.25(Mon)神戸市漁業協同組合のいかなご普及活動

5月17日の神戸新聞朝刊に「イカナゴのくぎ煮を炊くようになったのはいつから?」というインタビュー記事を掲載いただきました。
冒頭「ライフワークとして、くぎ煮の歴史を調べている山中さん」と紹介いただき、責任の重さを改めて感じています。

国立国会図書館デジタルコレクションで発見した「大日本水産暦」(大正3年(1914年)、水産新報社刊)の「いかなご 釘煮」の記述に関するプレスリリースに基づく神戸新聞社・長尾亮太記者(編集委員)によるインタビュー記事です。
大日本水産暦については、こちらの記事を参照ください。

長尾記者には2回来社いただきお話をしたのに加え、電話やメールでも何度もやりとりをして書き上げていただきました。
私が長尾記者の質問に答えている問答形式となっているため、私が変なことを言っているような記述にならないよう、非常に丁寧に事前確認をいただきました。
地元神戸新聞ならではの、「くぎ煮の歴史」についての集大成とも言える記事になっています。

「くぎ煮」はもともと漁師の家庭料理として存在しました。
たくさん獲れるいかなごを保存食として漁師さんの家庭で加工したのが始まりです。
大正3年発行の「大日本水産暦」に何の注釈もなく「釘煮」と記載があることから、当時の水産関係者には当たり前に知られた存在だったと言えます。
「大日本水産暦」にこの情報を提供した松原新之助さんは、明治の後半に活躍した水産業界の重鎮ですので、その頃には既に漁師の家庭料理としての「釘煮」が存在したことは間違いありません。
魚を砂糖と醤油で煮る、という料理法は広く行われていたと思われます。
砂糖が一般家庭に普及した明治時代に各地の漁師さんの家で「釘煮」が作られるようになったのでしょう。

この取材の中で、元々は漁師の家庭料理だったものを、神戸市漁業協同組合婦人部(現在は女性部)や神戸市婦人会の皆さんが講習会をして広めた歴史について改めて質問を受けました。
より確かなお答えとするため、駒ヶ林浦漁業会会長で、神戸市漁業協同組合代表理事を務めておられる、前田勝彦さんに改めて確認したのが以下の内容です。
前田さんは、2020年にイカナゴ専門業者の部会「摂津船曳網協議会」の会長に就任されています。最近3年間の大阪湾でのイカナゴ漁の禁漁を決断した摂津地区(神戸市)の責任者でもあります。

2014年5月、駒林神社の例祭時の写真です。右端の方が前田さんです(古い写真ですいません)。

いかなごのくぎ煮・普及の「第一波」
前田さんのお母さまは神戸市漁業協同組合婦人部の会長をされていたそうです。
前田さんが高校生だった頃、昭和55年(1980年)か56年(1981年)ごろには前田さんのお母さまはあちこちから呼ばれて、「くぎ煮」の炊き方講習会をされていたとのこと。
ちょうど本業のいかなご漁の忙しい時期ですが、獲れる時期に講習会をするしかないため、大変お忙しくされていたようです。
以前お話を伺った、地元駒ヶ林婦人会会長や神戸市婦人団体協議会会長を歴任された友光喜代子さん(大正7年(1918年)生まれ)もくぎ煮講習会の講師をされていたとのことでした。友光さんの「昭和55年の婦人会報に記載があった」という情報と時期が重なります。
友光さんの記事はこちらを参照ください。
前田さんによると、自治会活動の延長にある「婦人会」と漁協の婦人部(女性部)のメンバーの皆さんは重なりがなく、それぞれ別の組織としてくぎ煮講習会をされていたようです。
この頃は、獲れたイカナゴは神戸市では駒ヶ林と垂水の魚市場2ヶ所で競りにかけられて流通しており、この2つの魚市場の買参権(競りに参加する権利)を持つ業者経由で小売業や加工業者に流通していました。

いかなごのくぎ煮・普及の「第二波」
時代は平成に入り、前田さんは神戸市漁業協同組合でイカナゴの販売を担当されていました。
前田さんや前田さんの会社(岩松水産)の社員の方の営業活動の結果、平成3年(1992年)ごろ神戸市中卸売市場本場の荷受け(一次卸)である神港魚類と大水、東部市場の神港魚類でのイカナゴ取り扱いが始まります。
これにより、市場の二次卸業者を通じて兵庫県各地の魚屋さん、スーパー等の小売業で広く販売されるようになりました。
ちなみにその頃、前田さんのお父さまはイカナゴ専門業者の部会「摂津船曳網協議会」会長をされていました。
前田さんもお父さまと共に神戸市漁協の船曳網協議会のメンバーとして、当時開催された神港魚類、大水の関係者とのイカナゴ取り扱い開始の記念の式典・懇親会に出席されたそうです。

くぎ煮普及についての「第三波」
平成7年(1995年)1月17日に発生した「阪神大震災」。
全国から来ていただいたボランティアの方や、お見舞いをいただいた方にお礼として「くぎ煮」を贈ったそうです。
これにより「くぎ煮」の認知も全国に広まったと言えます。

前田さんから神戸市漁業協同組合婦人部が国の表彰を受けたことがあると伺い、インターネットで調べました。
全魚連のホームページで、以下の3つの表彰を見つけることができました。
農林水産大臣賞2回、水産庁長官賞を1回受賞されています。
イカナゴの魚食普及活動は日本でも極めて稀な成功事例と言われています。
この3件の報告文書も公開されています。
https://www.zengyoren.or.jp/wp-content/uploads/2021/11/bdc23b639f23079112db6fcea5b87adc.pdf
https://www.zengyoren.or.jp/wp-content/uploads/2021/11/f28b0f209d573ff0130b23052ca629e8.pdf
https://www.zengyoren.or.jp/wp-content/uploads/2021/10/8c1e60fed6ff88bfdd87906ef380a083.pdf
資料によると正式に神戸市漁協の活動として「くぎ煮講習会」が始まったのは平成元年(1989年)。
前田さんのお母さまや、駒ヶ林婦人会の友光さんが講習会をされていたのは昭和50年代半ば。
駒ヶ林地区では、正式に漁協の活動になる前から「講習会」を開いておられたようです。

今回の取材をきっかけに私も新しい知見を得ることができました。
長尾さん、前田さんに感謝です。ありがとうございます。

今後もライフワークとして継続して「くぎ煮」の歴史を調べてまいります。
「くぎ煮」に関する新たな情報、別の資料などがありましたら、ご一報ください。
どうぞよろしくお願いいたします。

6月12日追記:
前田さんとは2021年「海と日本プロジェクト」のいかなごの「くぎ煮」についての動画で共演したことがあります。

兵庫県の広報「ひょうごチャンネル」「農林水産業副読本視聴覚教材 16『イカナゴ漁のようす』」にも出演されています。